本記事では、学会の予稿(アブストラクト)をなるべく早く作成するための手順に関してお伝えします。
このように、初めての経験であったり書き方のコツがまだ掴めていなかったりといった理由から、学会の予稿作成に大きな負担感を感じてしまっている人が多いと思います。
本記事を読めば、予稿の型を理解し「楽に・素早く」作成できるようになりますよ。
多くの学会に参加し続けることで受賞される可能性も高まり、結果的にこれらの成果が第一種奨学金の返還免除や給付型奨学金の獲得に繋がります。
このような大学生/大学院生だからこそ利用できる金銭獲得制度への採用を目指し、本記事で予稿作成の負担感を下げる術を身につけて欲しいと願っています。
● 大学生におすすめのお金の稼ぎ方5選【給付型奨学金が最強です】
予稿(アブストラクト)の基本型
まずは予稿の全体像を紹介していきます。
基本的な型が決まっていると書き出しがスムーズになりますよ。
学会のアブストラクトは、基本的に上図のような8つのセクションに分けられます。
初めてアブストラクトを作成される方は、以下の順番で作成していくことをおすすめします。
- 実験方法
- 実験結果
- 考察
- 背景
- 課題
- 提案手法
- タイトル・著者情報
- 引用
予稿の書き方を具体例とともに紹介!
先程紹介した予稿の基本型をもとにした予稿例の全体像をまずお示しします。
【⑦タイトル】
「発電効率向上を目指した電子線照射による有機太陽電池の非晶質成分制御」
[著者・所属情報]
【④背景】
持続可能社会に向けて「脱炭素化」が強く求められている中、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーの需要はますます高まっている。
太陽電池はシリコンを始めとする無機材料を用いたものが精力的に開発、製造されてきたが、コストの高さや利用可能場所の制約から、近年の発電量割合の増加は頭打ちとなってきている。
有機太陽電池は塗布法と呼ばれるシンプルなプロセスで製造されるため、無機太陽電池と比較し安価に製造可能である[1]。
また、フレキシブル基板上にも膜形成することができ、幅広い場所、シーンにおいて太陽光エネルギーからの発電が可能になると考えられる。
【⑤課題】
しかし、有機太陽電池は開発が進んでいる無機太陽電池と比較して発電効率が低いという課題がある。
長年に渡る研究開発によって有機太陽電池材料の均質膜作製技術が開発されてきたが、近年では発電効率が頭打ちとなってきている状況にあり、従来の枠にとらわれない新たなアプローチが求められている。
【⑥提案手法】
本研究では、有機太陽電池の発電効率を根本的に改善するプロセスを実現するため、結晶性を制御する手法の開発を目指した。
非晶質成分が一定の割合で存在することで発電効率が向上することがシミュレーション結果から示されており[2]、結晶構造を変化させられる電子線照射を施し、発電効率におよぼす影響を調査した。
【①実験方法】
まず、超音波洗浄した基板上にA:B:C=1:1:3の割合で混合させた液体を滴下し、120℃の真空加熱炉で乾燥させた。
本基板を真空装置に導入し、10^-5 Paの真空度で300 keVの強度の電子線を照射した後、基板上に電極を蒸着し発電効率を測定した。
【②実験結果】
Fig. 1に、電子線照射時間と発電効率の関係を示す。
照射時間の増加とともに発電効率が向上し、照射時間20分で最大発電効率20%を得た。
このときの結晶構造をX線回折法で評価したところ、電子線照射によって非晶質成分のピークが増大していることを確認した。
照射前には存在しなかった非晶質部割合が、30分の電子線照射により30%まで変化した。
【③考察】
X線回折測定によって、電子線照射が結晶構造を部分的に崩し非晶質化したことが示された。
過去の文献にて、特定の割合非晶質成分が含まれることで、キャリア拡散長が伸び光電変換効率が大幅に向上するすることが計算によって提唱されている[2]。
本研究で新規に導入した電子線照射プロセスにより、膜の均質性を維持しつつ非晶質割合を精密に制御することで、発電効率を改善可能であることを明らかにした。
【④引用文献】
[1] 文献1
[2] 文献2
それでは順を追って詳細な書き方を説明していきますね
① 実験方法(1~2文)
学会の予稿の書き出しですが、まずは変えようがない事実から書いていきましょう。
学会の予稿を書こうとする段階で、既にある程度実験データ取得を進めていると思います。
「実験方法」は変えようがありませんので、まずはここから記入します。
事細かにに書く必要はないので、必要な要点、数値のみをピックアップして1~2文程度で記入してみて下さい。
例えば、仮にあなたが「有機太陽電池に電子線照射することで発電効率を5%向上させる新規製造手法を開発」したとします。
(分野外の著者が下調べ無しで考えた例ですので、技術的なツッコミはご容赦いただけると幸いです…汗)
その場合、以下のような感じで文章を作成してみましょう。
まず、超音波洗浄した基板上にA:B:C=1:1:3の割合で混合させた液体を滴下し、120℃の真空加熱炉で乾燥させた。
本基板を真空装置に導入し、10^-5 Paの真空度で300 keVの強度の電子線を照射した後、基板上に電極を蒸着し発電効率を測定した。
② 実験結果(3~4文)
出てしまった「実験結果」も変えようがありませんね。
こちらも得られた結果を要点を絞って説明していきましょう。
Fig. 1に、電子線照射時間と発電効率の関係を示す。
照射時間の増加とともに発電効率が向上し、照射時間20分で最大発電効率20%を得た。
このときの結晶構造をX線回折法で評価したところ、電子線照射によって非晶質成分のピークが増大していることを確認した。
照射前には存在しなかった非晶質部割合が、30分の電子線照射により30%まで変化した。
実験結果の説明の際には基本的に図面を1つ程度入れます。
1枚で自分の主張が伝わるような図面(グラフや概念図)を作成して貼り付けましょう。
例えば上図であれば、これだけでも「照射時間の増加に伴って非晶部が増加すること」、「発電効率と照射時間(非晶部)の間には最適な条件がある」という主張がひと目で伝わりますよね。
図面のサイズは、極端に小さくも大きくもなければOKです。
最終的に文量が少なかったり多かった場合のスペース調整にもなりますので、図面は必ず1枚程度入れておきましょう。
③ 考察(2~3文)
「考察」では、得られた結果から考えられる要因を論理的に説明していきます。
最初の方はなかなか「論理的に」というところが難しいと思いますので、研究室の先輩や教授と相談しながら筋の通った話を組み立てていきましょう。
X線回折測定によって、電子線照射が結晶構造を部分的に崩し非晶質化したことが示された。
過去の文献にて、特定の割合非晶質成分が含まれることで、キャリア拡散長が伸び光電変換効率が大幅に向上するすることが計算によって提唱されている[2]。
本研究で新規に導入した電子線照射プロセスにより、膜の均質性を維持しつつ非晶質割合を精密に制御することで、発電効率を改善可能であることを明らかにした。
また、考察に向けて十分な裏付けデータが取れてない、という状況もあると思います。
これは常套句なのですが、予稿の最後に
「これらのデータから、~が起こったと予測している。発表では、A測定やB観察の結果も踏まえて議論する。」
と書くことで、実際のデータ出しを後回しにすることが出来ます。
予稿提出日から発表までに2ヶ月以上間があることも多いので、その間に取る予定の測定データを示しておきましょう。
④ 背景(3~4文)
次に研究背景になります。
ここからがアブストラクト作成の本番であると言っても過言ではありません。
実験結果や考察は意外とサクッと書けそうでしたもんね
持続可能社会に向けて「脱炭素化」が強く求められている中、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーの需要はますます高まっている。
太陽電池はシリコンを始めとする無機材料を用いたものが精力的に開発、製造されてきたが、コストの高さや利用可能場所の制約から、近年の発電量割合の増加は頭打ちとなってきている。
有機太陽電池は塗布法と呼ばれるシンプルなプロセスで製造されるため、無機太陽電池と比較し安価に製造可能である[1]。
また、フレキシブル基板上にも膜形成することができ、幅広い場所、シーンにおいて太陽光エネルギーからの発電が可能になると考えられる。
背景の基本的な考え方ですが、大きな背景 ➞ 小さな背景に絞り込むように書くことが重要です。
急に「有機太陽電池」の話をされても「なぜそんな研究をする必要があるのか?」が読者は理解できませんよね
今回の場合は、
脱炭素化>再生可能エネルギー>太陽電池>有機太陽電池
と絞り込みを行なっています。
最初の予稿作成では「背景」が一番むずかしいと思いますが、今後何回も学会に参加する際にも背景は使い回し(コピペ)が効くので、頑張って作っていきましょう。
もちろん完璧なコピペはダメですが、言い回しを変えたり少し違う角度から切り込んでみたりすることで大枠は使い回せるようになります。
⑤ 課題(1~2文)
このあたりから、これまでに書いてきた事柄を上手く繋げるようなストーリー作りを意識していきたいですね。
「課題」では「④背景」と「②実験結果」を繋げ、本研究が社会的課題を解決するものであると言い切るための伏線の役割を果たします。
しかし、有機太陽電池は開発が進んでいる無機太陽電池と比較して発電効率が低いという課題がある。
長年に渡る研究開発によって有機太陽電池材料の均質膜作製技術が開発されてきたが、近年では発電効率が頭打ちとなってきている状況にあり、従来の枠にとらわれない新たなアプローチが求められている。
上の例の場合、「④背景」に記載した有機太陽電池の重要性を受けながら、「②実験結果」で達成した発電効率の改善に繋げられるような課題(伏線)を定義しています。
この「課題」に関しても、基本的には一度ストーリーを作ってしまえば他の学会でも使い回せます。
短期間で研究テーマが大きく変わることはほとんどありませんからね
ただ、こちらも得られた結果に合わせて要点の比重を変えることが必要になる場合があります。
「要点の比重を変える」というのは、例えば今回の例で言うと、
- 得られた結果:発電効率向上 ➞ 背景:有機太陽電池の変換効率が低かった
- 得られた結果:耐久性向上 ➞ 背景:有機太陽電池の劣化が早かった
- 得られた結果:製造コスト低減 ➞ 背景:有機太陽電池の製造プロセスが高価だった
といった感じです。
得られた結果に合わせて研究課題を柔軟に調整していきましょう
⑥ 提案手法(1~2文)
提案手法では、「⑤課題」を解決しうるような手法、つまり既に記載している「①実験方法」が有効であると考えた根拠を説明していきます。
本研究では、有機太陽電池の発電効率を根本的に改善するプロセスを実現するため、結晶性を制御する手法の開発を目指した。
非晶質成分が一定の割合で存在することで発電効率が向上することがシミュレーション結果から示されており[2]、結晶構造を変化させられる電子線照射を施し、発電効率におよぼす影響を調査した。
これで全てのストーリーが繋がりましたね。
⑦ タイトル
先程説明した「⑤提案手法」があなたの研究のオリジナリティとなりますので、この提案手法や実験結果を一言で過不足無く表すタイトルを考えていきます。
「発電効率向上を目指した電子線照射による有機太陽電池の非晶質成分制御」
なるべく特定の要素を入れ込んだ狭いタイトルが理想です。
「有機太陽電池の発電効率改善」だと広すぎるということですね
狭く絞ったタイトルだと、ぱっと見ただけでもあなたの研究結果を想像しやすくなります。
また、あなたはこの研究に近い内容で複数の学会に参加する可能性があります。
小規模な学会に多く出ることで受賞もしやすくなるんでしたね
広すぎるタイトルにしていると、次に参加する学会で内容被り=重複投稿だと見なされかねません。
なるべく狭く絞ったタイトルにし、違う学会で出しても「違う要素がある発表だ」と分かってもらえるようにしましょう
⑧ 引用文献
最後に、これまで引用してきた参考文献を記載して終了です。
参考文献情報を載せるだけですが、2~3行分のスペースを使ってしまいます。
ですので、全体的な文量が多すぎたり少なすぎた場合は、それに合わせて引用する文献を増減させて調整しましょう。
最後に改めて、全体を通してまとめた予稿テンプレートを掲載しておきますね
【⑦タイトル】
「発電効率向上を目指した電子線照射による有機太陽電池の非晶質成分制御」
[著者・所属情報]
【④背景】
持続可能社会に向けて「脱炭素化」が強く求められている中、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーの需要はますます高まっている。
太陽電池はシリコンを始めとする無機材料を用いたものが精力的に開発、製造されてきたが、コストの高さや利用可能場所の制約から、近年の発電量割合の増加は頭打ちとなってきている。
有機太陽電池は塗布法と呼ばれるシンプルなプロセスで製造されるため、無機太陽電池と比較し安価に製造可能である[1]。
また、フレキシブル基板上にも膜形成することができ、幅広い場所、シーンにおいて太陽光エネルギーからの発電が可能になると考えられる。
【⑤課題】
しかし、有機太陽電池は開発が進んでいる無機太陽電池と比較して発電効率が低いという課題がある。
長年に渡る研究開発によって有機太陽電池材料の均質膜作製技術が開発されてきたが、近年では発電効率が頭打ちとなってきている状況にあり、従来の枠にとらわれない新たなアプローチが求められている。
【⑥提案手法】
本研究では、有機太陽電池の発電効率を根本的に改善するプロセスを実現するため、結晶性を制御する手法の開発を目指した。
非晶質成分が一定の割合で存在することで発電効率が向上することがシミュレーション結果から示されており[2]、結晶構造を変化させられる電子線照射を施し、発電効率におよぼす影響を調査した。
【①実験方法】
まず、超音波洗浄した基板上にA:B:C=1:1:3の割合で混合させた液体を滴下し、120℃の真空加熱炉で乾燥させた。
本基板を真空装置に導入し、10^-5 Paの真空度で300 keVの強度の電子線を照射した後、基板上に電極を蒸着し発電効率を測定した。
【②実験結果】
Fig. 1に、電子線照射時間と発電効率の関係を示す。
照射時間の増加とともに発電効率が向上し、照射時間20分で最大発電効率20%を得た。
このときの結晶構造をX線回折法で評価したところ、電子線照射によって非晶質成分のピークが増大していることを確認した。
照射前には存在しなかった非晶質部割合が、30分の電子線照射により30%まで変化した。
【③考察】
X線回折測定によって、電子線照射が結晶構造を部分的に崩し非晶質化したことが示された。
過去の文献にて、特定の割合非晶質成分が含まれることで、キャリア拡散長が伸び光電変換効率が大幅に向上するすることが計算によって提唱されている[2]。
本研究で新規に導入した電子線照射プロセスにより、膜の均質性を維持しつつ非晶質割合を精密に制御することで、発電効率を改善可能であることを明らかにした。
【④引用文献】
[1] 文献1
[2] 文献2
【あとがき】予稿は30分で作成できる!
本記事では、予稿の具体的な作成手順を紹介してきました。
学会の予稿はA4用紙1枚であることがほとんどですので、文量としてはそこまで多くはありません。
適切なポイントをしっかりと押さえて作成することで、短時間で仕上げることができるようになります。
何回か予稿作成を繰り返すうちに30分程度で書き上げられるようになりますよ
学会で発表し続けることで受賞される可能性も高まり、給付奨学金獲得や大学院の奨学金返還免除に向けた重要な業績稼ぎの土台となります。
● 大学生におすすめのお金の稼ぎ方5選【給付型奨学金が最強です】
もちろん、学会受賞は就職活動においても高く評価されます。
予稿作成の負担感を下げて「成果稼ぎの好循環」を創り上げる基礎としましょう!
以上で予稿(アブストラクト)作成のコツに関する解説は終わりです。
ご不明点等有りましたら、お気軽にツイッター「@Washimaru_UNIV」までご質問ください。
お疲れ様でした!